“仕事にも学業にも自分の脳を上手く使いこなしたい”

“もっと「働く」脳へと進化させたい”

というのは誰もが願う思いです。しかし、目には見えない脳の働きは筋肉のように変化を見て感じることができません。ところが近年、脳科学が発達し、「有酸素運動で脳が活性化する」ことが明らかに。つまり、運動で筋肉が鍛えられるのと同じように、脳も鍛えられることが判明したのです。

定期的な有酸素運動で、脳が著しく活性化。

アメリカのイリノイ大学で行われた実験では、約200名もの子どもを対象に放課後に有酸素運動をするグループと運動をしないグループに分け、9カ月の実施期間後、それぞれの脳活動の変化を調査しました。

上のグラフは3つの異なるテストの正解率を示しています。まず、比較的単純なテストBでは両方のグループとも同じように正解率が上昇しています。この上昇は発達の影響やテストの学習効果を反映していると考えられます。一方で注意力や不要な情報を排除する能力を表す”抑制機能”を必要とするテストA、状況に応じて柔軟に行動や思考を切り替える能力を表す”認知的柔軟性”を必要とするテストCでは、正解率の上昇が運動をしたグループで大きかったことが分かります。つまり9カ月間の運動が抑制機能と認知的柔軟性、すなわち脳の実行機能を改善させたと考えられます。

この実行機能とは脳の前頭前野という部位が司っている機能で、論理的思考力や計画性、問題解決能力などに深く関与していると考えられています。実行機能を英語では高度な機能という意味を含めて「エグゼクティブ・ファンクション」と呼ばれ、学業やキャリア、家族生活など、人生を通したサクセス、つまり成功体験に関わっている機能であるとも捉えられています。

上の図は脳波によって計測した脳活動の変化を表しています。活性化していることを意味する赤、黄色に変化しているのは運動を行ったグループのみ。9カ月間運動をした子どもはテストAとCを行っている間、脳を活発に働かせることができるようになり、その結果、正解率が上昇したと考えられます。つまり、定期的な運動は、脳を活発化する能力を向上させたと言えるでしょう。

自転車通勤で、仕事がスムーズに。

一方、こちらは企業に勤める会社員を対象に、自転車通勤を2カ月間行った前後での労働生産性の変化です。自己回答型のテストを自転車通勤前と終了後に行い、「時間管理」「身体活動」「集中力・対人関係」「仕事の成果」についてその変化を評価しました。

その結果、どの項目も大きく向上しており(上記グラフ)、自転車通勤によって効率が上がり、スムーズに仕事が遂行できているという自己感覚が高まっていることがわかります。これらの結果を結び付けて考えると、自転車で時間をかけて帰宅することを考慮し、「何時には会社を出よう」という意識が働き、集中力や効率性が向上、それに伴い、「今日は思うように仕事ができた」という満足感や達成感につながっているものと予測されます。自分の脳力、および能力をもっと生かして「効率よく仕事を進めたい」という会社員が感じる思いを、自転車通勤がかなえてくれる可能性は高そうです。

海馬が大きくなり、記憶機能が向上。

アメリカのピッツバーグ大学行われた実験では運動習慣のない高齢者を集め、1年間ウォーキングを行うグループと、ストレッチングを行うグループに分け、MRIによって海馬の体積の変化を調査しました。すると、ストレッチンググループでは海馬の体積が縮小したのに対し、ウォーキンググループでは大きくなっていたのです。

加齢と共に海馬の体積は小さくなり、その機能も衰えてくるため、この研究結果から軽度な有酸素運動が認知症予防に貢献する可能性が考えられます。誰もが起こりうる認知症への不安に光を与えたこの結果。イキイキとした人生に運動がもたらす効果はとても大きいようです。

脳に働きかけて、人生の“サクセス”を呼ぶ有酸素運動。未来を変えるのは今かもしれません。新型コロナで外出自粛が求められていますが、“3つの密” を避ける自転車を活用して「通勤で脳活」、はじめませんか?