日本では2018年6月に自転車活用推進計画が閣議決定され、施策のひとつとして自転車通勤の促進が盛り込まれています。国内では大きく動きだした流れではありますが、諸外国の中にはすでに多くの施策が実行され、自転車通勤の促進を実現している国もでてきています。 新型コロナによって、世界的にも自転車通勤を実施する流れが起きていることもありますが、継続的に健康長寿社会を実現する手段として、どのように自転車通勤を促してきているのか、成功事例を参考に自転車活用推進のヒントを探ります。第2回はドイツ編です。

自転車活用推進の背景

ドイツでは1990年代以降、自転車は環境にやさしく、住宅地の騒音解消などQOLの向上や乗り手の健康増進に寄与するといった、多面的な機能が認知されるようになり、現在では国を上げて利用促進が行われています。

(参考)https://www.radstation.de//

上の写真はミュンスター駅前の自転車ステーション「ラッドスタチオン」で3,000台の自転車が止められて修理や洗車が依頼でき、新車販売店も入っています。

ここが20年前にできる前には建設に反対する人が大勢いましたが、今では街のシンボルとして多くの人々に利用されています。現在のミュンスター市内はクルマの侵入が制限され、歩行者と自転車に優しい街に生まれ変わりました。

主要大都市(ベルリン)の交通手段

東西ドイツが再び合併した1989年に東西に分断されていたベルリンも1つとなって統一ドイツの首都となり、現在の人口は約377万人とドイツで最も大きい都市です。

2018年にベルリン上院が行った交通手段調査では、最もよく使う交通手段として、

徒歩31%>公共交通機関27%> 原動機付き個人移動手段(クルマ)24%>自転車18%

となり、ベルリン市内は徒歩で移動する人が多いことが分かります。自転車の18%は比較的多いという印象ですね。


ドイツ全土の通勤事情

Statistisches Bundesamt (Destatis) 2020によるドイツ全土の調査によると、クルマ通勤は約70%と圧倒的に多いのですが、バスや電車など公共交通機関で通勤している人は13.8%と日本に比べて大変少ないです。そんな中で、自転車通勤が9.0と大きな存在感を示しています。

通勤距離は25km未満が75%以上を占め、通勤所要時間は60分以内の方が約92%、30分以内が約70%と、都市圏が小さいことが分かります。

ドイツ連邦政府の取り組み

連邦運輸デジタルインフラ省(BMVI)は2020年〜2023年の間に約14億ユーロを自転車インフラに投資すると決めると共に、ナショナルサイクリングプラン(NRVP)を策定し、具体的な目標を定めて様々な施策を打っていくことになっています。

主な施策

1)ドイツ国内の自転車インフラ整備

2)サイクリングにおけるビジョンゼロ(事故を無くす)

3)カーゴバイクによる都市貨物輸送

4)自転車通勤の更なる普及

5)交通手段として自転車の地位向上

6)自転車と他の交通手段とネットワークを活用した交通制御

7)自転車まちづくり

8)持続可能な交通手段の再構築

企業や雇用主の取り組み例

自転車通勤を推奨するポスター。ハートの部分には「心臓発作のリスク50%低減」という言葉も。

1)自転車リース利用に対する最大40%割引補助

2)カーゴバイクの購入補助

3)屋根付き駐輪場や社用自転車の提供

4)自転車の無料修理

5)修理道具や修理パーツの提供

6)シャワールームや洗濯機の提供

7)通勤手当の支給(ドイツでは通勤手段問わず1kmあたり30セント)

「1)自転車リース利用に対する最大40%割引補助」ですが、オンライン自転車店「fahrrad.de(https://www.fahrrad.de/)」で自転車をリースすると購入するより最大40%安く入手できる制度があります。

リースする仕組みは、

①従業員が自転車をfahrrad.deにて選び雇用主に発注を依頼する。

②雇用主から契約しているリース会社へ注文する。

③自転車が届いて自転車通勤を開始。毎月のリース料(新車購入価格の最大40%引きベースにした金額)は給与から天引きされる。

④期間終了後の残余価格で買い取ることも可能でこれは40%引きにならないものの、新車で買うよりは安く買える。ただし、ほとんどの人は次の自転車をリースするそう。

シャワーやロッカールームがあると自転車通勤して汗だくになっても大丈夫ですが、ドイツでは大きな会社の場合だいたいシャワーやロッカーがあるそう。また、企業に対するインセンティブとして、欧州連合と自転車の市民団体であるADFC(ドイツ自転車クラブ)が協力して「自転車に優しい会社」を毎年選んで表彰しています。

おわりに

ドイツは中世からの街の成り立ちが色濃く残る国で、100万人都市は4つしかありません。

通勤時間が短いということは人口が一極集中していないことを示しており、政府の機関も現首都ベルリンだけでなく旧首都のボンなどに分散しているほか、大企業も各都市に本社を置いて職住近接に貢献しています。

コロナ禍でますます自転車通勤に注目が集まっていますが、ドイツは比較的早くからインフラ整備に投資してきましたし、小さな子どもの頃から親が中心になって交通教育を進めているので、逆走する人も少なく秩序だった運用ができています。

マインドスイッチでは、自転車や自転車通勤による健康的で豊かなくらしを実現するための情報をこれからも皆様にお届けしてまいります。