自転車通勤制度の導入にあたり、懸念されるリスクとして通勤中の事故が考えられます。地域によっては自転車専用道路が整備されている場合もありますが、常に事故のリスクとは隣り合わせであることを意識すべきです。

第3回目の今回は、自転車通勤制度を取り入れる際に注意すべき「交通ルール・マナーの指導」をテーマにご紹介していきます。

自転車通勤には交通ルールの理解が必要

警察庁が発表している2019年の統計資料によると、自転車関連の交通事故は2009年からの約10年間で毎年少しずつ減少してきてはいます。しかし、事故件数を見ていくと対クルマとの事故が多く、自転車単独での事故件数も毎年一定数は発生しており、特に近年は増加傾向にあります。

自転車(第1・第2当事者)の相手当事者別死亡事故件数の推移

(出展:警視庁「令和元年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」)

一般的には自転車に対して、歩行者に近いイメージを持っている人も多いかもしれませんが、基本的には車道の左側を走行するため、クルマやバイクと接触するリスクがゼロではありません。また、特にスポーツタイプの自転車は簡単にスピードが出てしまうので、場合によってはクルマやバイクと同じように重大な事故を起こしてしまう可能性も否めません。

このような事態を避けるには自転車通勤をする社員が、車道でのクルマやバイクへの注意や、歩道や交差点での歩行者への注意を徹底できるように、交通ルール・マナーを事前に把握しておく必要があります。

マナーや法規を遵守する

自転車通勤制度を導入する際は、さまざまな事故やトラブルを未然に防ぐためにも、従業員に対して交通ルール・マナーの遵守を規則に取り入れることが重要になります。また、その周知のために自転車通勤をする社員への安全教育を実施する時間を設けることを検討しましょう。

自転車通勤で注意すべきルール・マナー

自転車が車道を走る場合は、クルマやバイクとおなじ走行車線を通行することになります。首都圏や関西圏などの都市部では自転車の利用率が高いため、自転車専用レーンとして道路が区画されている場所も多く存在します。こういった場所は視覚的にもわかりやすく、クルマを運転する側も自転車の通行を意識しやすいですが、都市部以外では自転車専用レーンが設けられていない場所も少なくありません。そのような場所においても、左側通行ではなく逆走したり、道路を横切ったりといった交通ルールに違反することがないように行動することが求められます。

また、自転車通行可の歩道や危険回避のためにやむをえず歩道を通行する場合、特に注意したいのが歩行者です。歩道はあくまで歩行者のための道路です。自転車2台で並走したり、スピードを出したりすることは歩行者と接触するリスクを高めるため、避けなければなりません。

安全教育・指導の方法の工夫

自転車通勤を実施する人が実際に自転車に乗り、交通ルールを意識しながら走行することは、実体験を通して学べるためにとても参考になります。最近では、映像内に自分がいるような体験ができるVR(バーチャルリアリティ)などを活用して、室内で疑似体験できるシステムも存在しますので、IT技術を利用する方法も検討してはいかがでしょうか。

ヘルメット装着義務化の検討

自転車通勤は、基本的に身体が無防備になっています。そのため、転倒した際に頭部を打ち付けてしまう可能性も決して低くありません。実際に自転車乗車中の死者のうち60~70%が、頭部への損傷がその主な原因となっているという調査があります。このような危険から身を守るためには、日頃からのヘルメットの着用が効果的となるでしょう。

また、国土交通省からはヘルメット着用と非着用では、致死率が2.5倍も異なるという調査結果も発表されています。

(出展:国土交通省(自転車活用推進官民連携協議会)「自転車通勤導入に関する手引き」)

徒歩とは違い、自転車はある程度のスピードが出る乗り物です。従業員の安全を確保するためにも、ヘルメットの着用を義務付けることを検討してみましょう。

夜間のライト点灯について

自転車通勤では、夜間の走行もあらかじめ想定しておく必要があります。夜間のライト点灯は法律で定められていますが、自転車のライト装着自体は義務にはなっておらず、そのためうっかりと未装着のままで夜間に運転する可能性があります。

夜間の無灯火運転は事故につながるリスクが高く、より安全を確保するためにはライト装着は必須と考えられます。

ライトを装着するのは、自転車に乗る側の視界確保だけでなく、自転車の存在を周囲に知らせるという重要な役割も併せ持っています。当然ですが、夜間に無灯火で走行していると、クルマからも歩行者からも自転車は確認できず事故のリスクを高めることになりますので、その点も十分に自転車通勤をする社員には理解してもらう必要があるでしょう。

また、最近では明るさを十分に確保できる充電式のLEDライトが主流になっていますが、いざ必要となった時に確実に点灯するように、自転車通勤をする社員には定期的なチェックを行ってもらいましょう。

警音器(ベル)装着は義務

警音器、いわゆる「ベル」は法律で装着が義務となっています。一般的な自転車では、はじめから装着されていることが多いですが、クロスバイクやロードバイクなどのスポーツバイクは標準で装着されていないケースも多いため、注意が必要です。

ベルは、自転車同士や歩行者との接触を未然に防ぐために欠かせないアイテムですが、適切に使うことができるように、ライトの点灯とあわせて定期的なチェックを呼び掛けていきましょう。

自転車通勤の制度設計は交通ルールやマナーの啓発とセット

自転車といっても、交通ルール・マナーをしっかりと守らなければ、大きな事故につながりかねません。小回りがきくからといって、狭いスペースを利用してクルマに近づきすぎてしまうと接触リスクも高まります。

企業は社員が快適な自転車通勤を実施するための制度設計とともに、社員自身が事故やけがのリスクを十分に理解して行動できるように、交通ルールやマナーの啓発が必要です。

マインドスイッチでは、自転車や自転車通勤による健康的で豊かなくらしを実現するための情報をこれからも皆様にお届けしてまいります。