
自転車通勤で気を付けたいことの一つに「事故」がありますが、自転車は「被害者側」というイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか。しかし、実際には「加害者側」となるケースも少なくありません。
加害者側になってしまうと、場合によっては多額の賠償請求が発生することもあり得るため、企業が自転車通勤を導入するときは、損害賠償保険の加入についても検討する必要があります。また、地方自治体が自転車通勤を行う人に対して損害賠償保険の加入を義務化しているケースなどもあります。
第4回目の今回は、自転車通勤制度の導入時に検討すべきこととして、「損害賠償保険への加入」をテーマに詳しく見ていきましょう。
INDEX
自転車の損害賠償保険の備えが必要な理由
自転車事故は、対クルマや対バイクの他に、自転車相互や対歩行者などのケースが考えられます。これらの事故の要因はさまざまですが、対クルマや対バイクの場合はほとんどが「被害者」となる可能性が高いのに対し、対歩行者の場合は「加害者」となる可能性があります。
さらに交通事故総合分析センターが取りまとめた調査結果によると、自転車相互事故や対歩行者事故では、運転者本人が無傷の割合が高いにもかかわらず、相手側は軽症または重症の割合が高くなる傾向があります。
相手当事者別の事故当事者の人身損傷程度の割合(平成22~26年合計)

出展:公益財団法人 交通事故総合分析センター「ITARDA INFORMATION 交通事故分析レポート No.112」
このように、事故のケースによっては相手側に多大な被害を負わせるリスクがあるため、損害賠償保険への備えが重要であることが、お分かりいただけるかと思います。
特に首都圏や大阪など関西の都市部では自転車の利用率が高く、事故リスクが高まるとのことから、損害賠償保険への加入が義務化されています。その他の都市部でも加入を努力義務としている自治体が多く、企業はもちろん個人レベルでも保険への関心は高くなっています。
従業員・事業者とも「損害賠償保険」への加入が必要

自転車通勤時に社員が事故を起こし、加害者となった場合は、従業員が個人としてその責任を負います。しかし、何らかの事業活動の途中で発生した自転車事故の場合は、事業者が使用者としての責任を負う可能性があります。たとえば自転車通勤時に、事業活動として立ち寄り先に向かう途中で事故が発生したケースなどは、事業者にも責任が求められる可能性が出てきます。このような事態に備えるため、事業者は損害賠償保険への加入を検討する必要があります。
では、具体的にどのような損害賠償保険に加入すればよいのかを詳しく確認していきましょう。
保険の種類
従業員と事業者では、加入する保険の種類が異なります。従業員が通勤時の自転車事故に備えるには、「個人賠償責任保険」に加入します。一方で事業者が加入する保険は「施設賠償責任保険」、または労災認定されない場合に備える団体保険となります。
賠償額は1億円以上であることが望ましい
損害賠償額は、1億円以上に加入することが望ましいとされています。自転車の使用者が加害者になった場合で、歩行者への衝突が原因で意識障害になった相手方に9,000万円以上の賠償判決が出た例が少なくないためです。
賠償は歩行者への怪我だけではなく、停車していたクルマに一方的に衝突し、クルマの一部を破損させた場合などでもあり得ます。そのため十分な備えが必要です。
定期的な加入状況の確認
事業者は、業務ごとにさまざまな保険に加入しています。自転車通勤制度のための損害賠償保険もそのひとつとなるわけですが、適切な補償内容で加入しているか定期的にチェックすることが大切です。必要であれば見直しも行いましょう。
シェアサイクルは事業者側が損害賠償保険に加入済みか確認する

シェアサイクルを自転車通勤に利用するケースも考えられます。この場合、シェアサイクル事業者が、損害賠償保険に加入しているのかを確認しておくことが重要です。
もっとも、基本的にシェアサイクル事業者は、損害賠償保険に加入していますが、もし未加入であった場合は、従業員自身が個人で加入しなければならないことを通知しておきましょう。
なお、自転車保険加入を義務化している自治体では、シェアサイクル事業者が保険に加入することが義務化されていますので、大半のシェアサイクル事業者はしっかりとルールを守っているはずですが、念のため事前に確認しておくことが重要です。
交通ルール・マナーを守り事故を防ぐことが大切
このように、自転車においても、事故が発生すると高額な賠償額になるリスクがあります。自転車通勤の利用の仕方によっては事業活動中となる可能性もありますので、企業としても万一のために備えておくことが大切です。とはいえ、最も大切なのは、事故が発生しないように交通ルール・マナーを遵守することに他なりません。
自転車通勤制度の導入の際には、事故を未然に防ぐ指導も積極的に行っていきたいですね。
関連記事:企業が自転車通勤制度を導入するときに検討すべきこと(3)~事故予防のルール・マナーや法規の遵守~
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