自転車通勤制度の導入を積極的に検討する企業が増えていますが、もしも従業員が事故に巻き込まれたらどのように対応すべきなのでしょうか。これは、自転車通勤制度を取り巻くリスクのなかでも最大の懸念事項として挙げている企業も少なくありません。

そして、このリスクには被害者と加害者のどちらの立場にもなり得ることをはらんでいます。前回に引き続き導入時に検討すべきこととして、「事故の対応」をテーマに詳しく見ていきましょう。

加害者となる自転車事故

従業員が交通ルール・マナーをきちんと遵守していても、偶発的に事故が起こってしまう可能性は否めません。そして、従業員が加害者となってしまう場合は次の3つの責任が発生することになります。

1.民事上の責任:対人・対物の損害賠償など

民事上の責任となる損害賠償では、多大な額になる可能性もあります。しかし、自転車損害賠償責任保険等に加入していることで、円滑な対応ができます。

2.刑事上の責任:懲役、禁固、罰金など

事故に重大な過失がある場合は、刑事上の責任が科せられることがあります。

3.行政上の責任:クルマの運転免許証の停止など

自転車事故でもクルマの運転免許証の停止処分を受ける可能性があります。

刑事上の責任や行政上の責任に問われるケースの多くは、交通ルール・マナーを遵守せずに発生した事故です。通常、自転車は道路の左側端に寄って走行するのが基本ですが、道路の右側車線を走行したことによって事故につながるようなケースでは、禁固刑を受けた事例もあります。

(参考:東京都「指導者用資料」)

使用者責任と認められるケース

従業員が事故に巻き込まれた場合、民事上の責任である対人・対物などの損害賠償責任が発生しますが、次の3つの要件を全て満たした場合は企業にも民法715条で定められている使用者責任が問われます。

・従業員が不法行為責任を負う場合(民法709条における故意または過失によって他人の権利または利益を侵害する行為)

・不法行為の当時に、従業員との確固たる雇用関係ある場合

・企業の事業を執行するために従業員が第三者に損害を与えた場合

このとき、使用者責任を問われるケースがどうか混同しやすい例として、休日出勤途中での事故が挙げられます。ただし、事業者から呼び出しを受けて休日出勤する場合は、確固たる「業務」とされ使用者責任が問われます。また、事業者名が記された自転車を従業員に貸与し、通勤途中に事故に巻き込まれ、業務上の範囲内での事故と判断される場合は使用者責任が問われる可能性があります。

しかし、仮に従業員に不法行為があったとしても「従業員の不法行為が成立しない」「従業員の選任・事業の監督に十分注意していた」「相当の注意をもっても損害が発生した」などの場合は、使用者責任が免責される場合があります。

(参考:電子政府の総合窓口(e-Gov)「民法 第七百十五条」)

事故時に事業者・従業員の双方が行うべきことを守るには

万が一の事故が発生したときに、事業者・従業員の双方が落ち着いて行動できるよう、企業としては具体的な連絡網やマニュアルを作成しておくべきでしょう。

事故が発生したときには、まず負傷者への救援や道路の危険防止の措置をして、警察へ通報します。次に従業員は会社に連絡しなければなりません。その連絡を受けた会社は、従業員からの事情説明をもとに保険会社へ事前連絡しておくと、後々の流れがスムーズに運びます。

このような一般的な事故発生時の対処ですが、いざ当事者となってしまった場合は、どんなに優秀な従業員でも自らの判断で対処していくのは困難なものです。そのため、従業員が事故に巻き込まれた場合、どこに連絡をすべきかを事前に周知しておくことが重要です。このとき、就業時間内外や休日などによって連絡先が異なる場合は、それぞれの連絡先も細かく周知する必要があります。

さらにどのような緊急連絡体制にすべきか、フローチャートなどを作成して確実に連絡がとれる体制を整えましょう。また、これら連絡網に加えて事故時のマニュアルをデジタルデータで周知しておくことも有効な手段です。

どうしても紙面のマニュアルでは持ち歩くことが難しく、万が一のときに活用できない恐れがありますが、クラウドサービスを利用すれば、事故現場からでもスマートフォンでアクセスして確認することができます。

また、従業員の事故を未然に防止するための安全講習会を継続的に実施することなども計画し、安全・安心を第一に考慮した制度を検討していきましょう。

(参考:東京都「自転車安全利用研修の手引き」)

規則の見直しや連絡体制は定期的に更新する

自転車通勤制度を導入するには、事前に準備すべきことが様々あります。まずは規則を作成し、その規則に沿って運用することになりますが、事故時の対応や緊急連絡体制も含めて、企業がより運用しやすいように見直しながら更新していく必要があります。

また、自転車通勤制度は、企業にとっての経費削減や、従業員の健康維持など様々な利点が考えられますが、同時に事故のリスクもはらんでいます。そのため、交通ルール・マナーの遵守などはもちろん、企業と従業員のそれぞれに求められる責任範囲をしっかりと理解しておくことが重要です。

マインドスイッチでは、自転車や自転車通勤による健康的で豊かなくらしを実現するための情報をこれからも皆様にお届けしてまいります。