
英語でオランダはNetherlandsと書きますが、これは「低い土地」という意味。
現在でも国土の約1/4が海面下にあります。“世界は神が作ったが、オランダはオランダ人が作った” という言葉の通り、風車を活用し沼地から排水して耕作地に転用することで、人口を増やしてきました。
よって国土は平坦で最も高い地点でも海抜321mと自転車で走るには適した環境となっていますが、地球温暖化によって海水面が上昇すると困るので、オランダ人は環境に対して強い危機感を持っており、できるだけ温暖化ガスを出すクルマを使わないよう政府が高い税金を掛けています。
もともとクルマメーカーがなく、こういった政策に市民権が得られやすいのは、前回のデンマークと似ていますね。“Vol.71世界の自転車通勤事情調査 第3回デンマーク編”
INDEX
主要大都市(アムステルダム)の交通手段
アムステルダムでは35%の市民が通勤や通学に自転車を使っています。1990年代に政府が自転車優先政策へと舵を切って以来、徐々に自転車の使用率が延びてきましたが、近年はやや頭打ちの状態になっています。クルマは19%と2割を切っており、環境意識の高い国民性がうかがえます。右側にあるグラフは教育レベルによって好む移動手段の違いですが、高い教育レベル(Hoog)の人ほど自転車を選ぶ傾向があります。

出典:アムステルダム市アクセシビリティ統計
(Amsterdamse Thermometer van de Bereikbaarheid 2019)
交通手段別割合(オランダ全土の統計)

次にオランダ全土の交通手段ですが、上記のグラフの真中(Aantal verplaatsingen=トリップ数(その交通手段の利用率))をみると、他の国と同様に地方部を含めるとクルマ(Auto)が運転と同乗を合わせて47%と圧倒的です。電車(Trein)は3%、自転車(Fiets)は27%、バスと路面電車が3%、徒歩(Lopen)18%、その他(Overig)3%で、オランダ全土でも自転車が27%と、やはり大きな存在感を示しています。
オランダ政府の取り組み
自転車通勤者を増やす
オランダ政府は現政権任期中に自転車または公共交通機関と組み合わせた自転車での通勤者を、今より20万人増やす政策を展開中で、高速サイクルルートに2,600万ユーロ、自転車駐輪場設備の建設やリニューアルに7,400万ユーロと、計1億ユーロを投資する予定です。政府はこの政策にこれまで、3億4500万ユーロを投資しています。
また、政府と市場関係者、社会組織、その他の機関が協力して自転車政策を強化しており、ツールドフォースプログラムを組んで諸問題に取り組んでいます。その中には高齢者が自転車に乗り続けられるために何ができるか、といった難題も含まれます。
自動車税と燃油税
地球温暖化で国土の一部が水没する危機感もあり、昔から気候や環境に対する意識が高いオランダ。そんな背景もあってクルマには燃料や重量によって、細かく税金が決められており、ガソリンなどの燃料代にも高い税金が掛けられています。ちなみに重量1,220kgのガソリン車を買うと、自動車税が3カ月ごとに139ユーロ(約17,218円!)かかるほか、道路税も取られます。日本より大幅に税金が高いですね。
自転車インフラへの投資
オランダの道路は多くの場所で、歩道・自転車道・車道が構造的に分離しています。

アムステルダムには独立した(車道・歩道と構造的に分離された)自転車道が736kmあります。道路総延長2,528kmのうち736kmは29%にあたり、世界一の自転車都市と呼ばれる、デンマークのコペンハーゲンよりも自転車道の占める割合は大きいです。(文中の数値は四捨五入してあります)

(Amsterdamse Thermometer van de Bereikbaarheid 2019)
下の写真は、オランダの北ブラバント州にある世界初の吊り下げ式自転車専用橋のラウンドアバウトです。アイントホーフェン、フェルトホーフェン、メールホーフェンという地域の間に位置し、ホーフェンリングの名前の由来となっています。

ホーフェンリングのより魅力的な画像はこちら(オランダメディア:Eindhovens Dagblad)
自転車通勤への補助
全国自転車計画によって往復15km以上で全労働日の半分以上を自転車通勤することを条件に、非電動自転車には749ユーロ、電動アシスト自転車には1,000ユーロの購入補助金が出ます。
従業員が自分で自転車を購入せずに、月に数ユーロの追加税を払うことで、社用自転車を私的用途にも利用できる制度があります。
2015年に導入された労働関連費用制度によって、雇用主は総賃金の1.2%を非課税で現物、または給付金として従業員に出すことができますが、これを社用自転車の制度に利用しても構いません。
雇用主が労働関連費用制度を利用する場合は、従業員の月々の支払いに充当して従業員は全く負担なく、社用自転車に乗り続けることもできます。手厚い制度ですね。
おわりに
オランダはオランダ人が作ったという言葉が示す通り、国土の一部が海面下にあって地球温暖化の影響を直接的に受ける環境であるため、日本人が想像する以上に気候変動への危機感を持っています。オランダ政府や国民の意識の高さ、ぜひ私たちも見習いたいものですね。
お天気の良い日は環境にやさしい自転車で出かけてみませんか?

マインドスイッチでは、自転車や自転車通勤による健康的で豊かなくらしを実現するための情報をこれからも皆様にお届けしてまいります。
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