この記事でわかること
シマノがリムやスポークの素材を進化させながら、どのようにホイールの軽量化を実現してきたのかを紹介します。
軽量なホイールの性能は、単なる重量(グラム数)だけで決まるものではなく、剛性、空力性能、そしてライドフィールとのバランスによって成り立つことを解説します。
最新のDURA-ACEロードホイールにおいて、リム、スポーク、ハブ、フリーハブがどのように連携し、一体となって高いパフォーマンスを生み出しているのかを紹介いたします。
この度、当ウェブサイトにて、従来より販売しているブランドのラインナップ情報へのリンクを新たに追加しました。
新たに設定したブランドは以下の通りです:
ROAD : TIAGRA/SORA/CLARIS
MTB : ALIVIO/ACERA/ALTUS
LIFESTYLE : ALIVIO/ACERA/ALTUS, TOURNEY
これらのリンクは、各カテゴリーの「PRODUCT」内にある「GROUPSET」に設定しております。
各ブランドのラインナップや部品ごとの詳細な仕様・特徴については、ブランド名をクリックしてご確認ください。
シマノがリムやスポークの素材を進化させながら、どのようにホイールの軽量化を実現してきたのかを紹介します。
軽量なホイールの性能は、単なる重量(グラム数)だけで決まるものではなく、剛性、空力性能、そしてライドフィールとのバランスによって成り立つことを解説します。
最新のDURA-ACEロードホイールにおいて、リム、スポーク、ハブ、フリーハブがどのように連携し、一体となって高いパフォーマンスを生み出しているのかを紹介いたします。
ライダーが「速さ」について語るとき、まずホイールの話から始まることが少なくありません。
それも当然のことです。ホイールはロードバイクにおいて、最も効果を実感しやすいアップグレードの一つだからです。加速性能、巡航速度の維持、横風への対応、さらには上りに差し掛かった時や、ペースが一気に上がったときの走行フィーリングにも大きな影響を与えます。
しかし一方で、ホイールの性能は単純化して語られがちです。
「リムハイトは高いほど速い」「軽いほど優れている」「エアロ性能はレース用途だけのもの」と考えたくなるかもしれません。しかし実際には、優れたロードホイールは一つの数値だけを追求して作られているわけではありません。重要なのは、あらゆる性能要素のバランスです。
この考え方こそが、シマノのロードホイール、そして特にDURA-ACEホイールシリーズの開発思想の根幹にあります。私たちが掲げる「Science of Speed」のアプローチでは、ホイール性能は「空力性能」「剛性」「軽量性」という3つの中核要素によって形づくられます。目指しているのは、どれか一つを極限まで高めることではありません。実際のライド環境やさまざまなコンディションの中で、これら3つの要素の関係性を最適化することなのです。
新しい WH-R9370 DURA-ACEホイールシリーズ には、専用設計のカーボンスポークと、それぞれの用途に最適化されたスポーク組みパターンが採用されています。スポークの選択は、単なるデザインのためではなく、明確な機能的目的に基づいています。
スポークは、ホイールの横剛性の感じ方や加速性能、さらにはライダーが入力したパワーをどれだけダイレクトに推進力へ変換できるかに大きく影響します。
シマノでは、クライミング、スプリント、そしてオールラウンドなライディングといった用途ごとに最適なスポークパターンを開発しました。これにより、それぞれのホイールが本来の目的に最適な性能を発揮できるよう設計されています。
その概要は以下のとおりです。
| Model | Front | Rear | Designed For |
|---|---|---|---|
| C36 |
スポークタイプ: Aero スポーク本数: 18 リム幅: 29.4mm |
スポークタイプ: Aero スポーク本数: 21 リム幅: 29.4mm |
クライミングステージで真価を発揮する、卓越した軽量性能 |
| C50 |
スポークタイプ: Aero スポーク本数: 21 リム幅: 31mm |
スポークタイプ: Aero スポーク本数: 21 リム幅: 32mm |
あらゆるライドに応える万能なパフォーマンス |
| C60 |
スポークタイプ: Aero スポーク本数: 21 リム幅: 31.5mm |
スポークタイプ: Aero スポーク本数: 24 リム幅: 32.3mm |
スプリンターが選ぶ一本 |
| C99/DISC |
スポークタイプ: Super Aero スポーク本数: 16 リム幅: 35.2mm |
DISC | タイムトライアルとトライアスロンのために |
ホイールにおいて、すべての重量が同じように影響するわけではありません。その理由を見てみましょう。
加速時には、ホイール外周部の重量は、中心部付近の重量よりも慣性に大きな影響を与えます。そのため、リム重量を削減することは、ホイールが素早くスピードに乗る性能に対して非常に大きな効果をもたらします。
例えば、 WH-R9270-C36 と R9170-C40 を比較すると、加速に必要なエネルギー削減量の多くは、ホイール外周部の軽量化によって実現されています。
だからこそ、軽量ホイールの設計は素材選びから始まります。しかし、それだけではありません。重要なのは、重量をどこに配置するかという考え方です。
リム、スポーク、ハブシェル、アクスル、そしてフリーハブボディは、それぞれ異なる役割を担っています。そのため、すべての部品に同じ素材を使う必要はなく、また、同じ方法による軽量化が等しく効果を発揮するわけでもありません。
これこそが、シマノのホイール開発が歩んできた進化の本質です。それは単純に「軽くすること」を追求する歩みではありません。どこを軽くすることが最も大きな効果を生むのかを、より深く理解し磨き上げてきた開発の歴史なのです。
シマノの素材選択に対する考え方を最もよく表している例の一つが、2010年代前半のDURA-ACEホイールシリーズです。
WH-R9000-C24 および C35 は、少ないスポーク本数、エアロ形状のバテッドスポーク、比較的狭い15Cリムを組み合わせ、軽量化を重視して設計されていました。例えば、C24はフロント16本・リア20本、C35はフロント16本・リア21本のスポーク構成を採用していました。
さらにその次の世代となるR9100シリーズのリムブレーキモデルでは、シマノの素材戦略がより明確に表れています。WH-R9100-C40チューブラーおよびC60チューブラーはフルカーボンリムを採用。一方で、同シリーズに属するRS700 C30チューブレスなどのモデルでは、カーボンとアルミニウムを組み合わせたリム構造が採用されていました。
また、WH-R9100-C40チューブラーのリアホイールにはチタン製フリーハブボディが採用される一方、スポークにはステンレススチール、ニップルにはアルミニウムが使用されていました。
当時から、軽量化において最も大きな効果を得られる部位はリムであることがわかっていました。しかし、すべてのホイールを同じレベルまで素材面で突き詰める必要があるわけではありません。
空力性能の向上やリム外周部の軽量化が大きなメリットをもたらす部分にはカーボンを採用し、一方で、リムブレーキ時代において信頼性の高い制動面や実用的なチューブレス構造を実現するためにはアルミニウムを活用しました。また、ハブシステムについても、チタン製フリーハブボディやアルミ製ハブシェル、アクスルを採用することで軽量化を図っています。
これは決してネガティブな意味での妥協ではありません。むしろ、それぞれの素材の特性を最大限に生かすための選択でした。
カーボン、アルミニウム、チタン、そしてステンレススチール。それぞれの素材には、それぞれ担うべき役割があるのです。
スポークはしばしば、ハブとリムをつなぐ単なる構造部材として語られます。しかし実際には、スポークはホイール全体の重量配分や横剛性、さらにはライドフィールを形づくる重要な要素です。
シマノのロードホイールを世代を超えて見ていくと、一つの興味深い共通点があります。それは、長年にわたりステンレススチール製スポークを採用し続けてきたことです。
過去のR9100シリーズのホイール仕様ではスポーク素材としてステンレススチールが記載されており、最新世代のR9270ディスクブレーキホイールにおいても、同様にステンレススチールが採用されています。
リムは複合構造からフルカーボンへ進化し、ハブシステムも新しいエンゲージメント機構やスルーアクスルへと発展してきました。しかしシマノは、新しさそのものを追求するためにステンレススチール製スポークを捨てることはしませんでした。
その代わりに、スポーク設計そのものを進化させてきました。ストレートプル構造、ブレード形状、バテッド加工を採用し、さらにリムハイトや求められる走行特性に応じてスポーク径や本数を最適化しています。
例えば、R9270 C50 と C36 では、24本のストレートプル・ブレード・バテッドスポークを採用し、その断面は 2.0-1.5-2.0mm のプロファイルとなっています。一方で、より高い剛性性能を追求した C60-HR では、2.0-1.8-2.0mm プロファイルのスポークを採用しています。
つまり、答えは必ずしも「別の素材を使うこと」ではありませんでした。
既存の素材を、より高度に活用することだったのです。
スポークには軽量であることが求められます。しかしそれだけではありません。高い張力を維持し、疲労に耐え、空力性能に貢献し、さらに各リムハイトが目指すライド特性と調和しなければなりません。
ステンレススチールが今なお採用され続けているのは、その素材自体が優れているだけでなく、それを活用する設計技術が進化し続けているからなのです。
加速性能は、大きく二つの要素によって決まります。それは駆動剛性の向上と、加速時に必要なエネルギーの低減です。
新しいR9300ホイールシリーズでは、従来のR9200シリーズをベンチマークとして、駆動剛性を大幅に向上させるとともに、加速に必要なエネルギーも削減しています。
私たちが追い求めてきた問いは、決して
「どうすれば最も軽いホイールを作れるか」
ではありませんでした。
本当に追求してきたのは、
「素材をどのように活用すれば、鋭い加速性能を実現し、効率よくスピードを維持し、さらには高負荷下でも信頼できるホイールを作れるか」
という問いです。
だからこそ、リムハイト、スポーク仕様、フリーハブ構造、そしてアクスル規格は、それぞれ独立して考えるものではありません。すべてが相互に関係し合いながら、一つのホイール性能を形づくっています。
現在のラインアップでは、より軽量な設計、優れた空力性能、DIRECT ENGAGEMENTハブ、E-THRUアクスル、そしてフルカーボンリムを組み合わせています。
これらの要素は単に並べられているのではなく、互いの性能を高め合いながら機能することで、より高い次元の走行性能を実現しているのです。
かつてのパフォーマンスホイールでは、その時代の要求に最適に応えるため、カーボンとアルミニウムを組み合わせた構造が採用されていました。また、プレミアムなリムブレーキ用ホイールでは、軽量化に貢献するチタン製リアフリーハブボディも採用されていました。一方で、スポークにはステンレススチールを継続して使用し、強度、耐久性、そして優れたライドフィールのバランスを実現してきました。
そしてロードバイクの技術が進化するにつれ、シマノのホイールも、フルカーボンの高性能リム、よりワイド化した現代的なリムプロファイル、洗練されたスプライン設計を採用したアルミ製フリーハブボディ、さらには軽量化と駆動剛性向上の両立を実現するDIRECT ENGAGEMENTハブシステムへと発展してきました。
これは単なる素材の置き換えではありません。
そこには一貫したエンジニアリング思想があります。
カーボンは、外周部の軽量化、自由度の高い成形、そして高い剛性が最も重要となる部分に使用する。
アルミニウムは、高精度な機械加工、中心部の軽量化、そして優れた構造インターフェースを実現し、システム全体として最適な性能を引き出すために使用する。
ステンレススチールは、疲労耐久性、スポークとしての理想的な挙動、高い信頼性が求められる部分に使用する。
そして、それぞれの素材を取り巻く設計や構造を進化させ続けることで、各素材の性能を最大限に引き出していく。
それこそが、シマノのホイール開発を支える哲学なのです。
軽量ホイールとは、単に重量が軽いだけのものではありません。
走りに生命感を与えてくれる存在であるべきです。
上り坂では重力に抗うのではなく、路面の変化に自然に呼応すること。加速を求めた瞬間には、遅れることなくダイレクトに応えること。そして高速コーナーでは狙ったラインを正確にトレースし、その性能が数週間だけでなく、シーズンを通して変わらず維持されること。
だからこそ、素材のストーリーが重要なのです。
優れたホイールは、特定の素材だけを追い求めたり、ひとつの数値だけを極限まで高めたりすることで生まれるものではありません。
それぞれの素材がホイール全体の性能にどのように貢献するのかを理解し、その役割を最適化することで生まれます。
リム一本ごとに。
スポーク一本ごとに。
ハブひとつごとに。
そうして積み重ねられた設計思想こそが、軽量でありながら高性能なホイールを実現するのです。
そして長年にわたり、シマノはまさにその方法によって、ホイールをより速く進化させてきました。