創意工夫で限界を超えてゆく
- パラサイクリストのバイクセットアップ -

2020/10/12

二人のパラリンピック代表候補のバイクにみる独創的なセットアップ

 

ジョシー・ファウツ(Josie Fouts)、オハイオ出身の29歳。

彼女が自転車競技を始めたのは僅か2年前のことですが、すでにトラック競技で二つのナショナルチャンピオンを獲得し、最近ではサンディエゴヴェロドームにてアワーレコード(1時間でどれだけの距離を走れるかを競う種目)を更新するなど、輝かしい実績を残しています。

 

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彼女には生まれつき左手がありません。

 

ジョシーは自身の身体的特徴はパワーの源であり、それこそが精神的なタフネスを築き上げてきたと考えています。

自分のチャレンジを妨げるものは何もないという強い気持ち、それは2021年へと延期された東京パラリンピックへ向けてのモチベーションにも繋がっています。

 

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これまで達成してきた数々の記録に決して満足せず更なる高みを目指しトレーニングに励む彼女ですが、現在右手のみで二つのブレーキを操作するという方法で、バイクコントロールにおいても新たな次元へとその挑戦を進めています。

 

片方の手の機能に制限があるライダーにとって、バイクのブレーキ操作というのは極めて難しいものです。

通常、バイクの前後ブレーキは左右それぞれの手で別々に操作するものだからです。

スプリッターを使いひとつのレバーの力を前後ブレーキに振り分ける方法はありますが、もちろん前後それぞれのブレーキの繊細なコントロールはできません。

そしてたとえ油圧システムを使ったとしてもスプリッターを経由することにより絶対的なブレーキングパワーは劣ることになります。

 

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ここでユタ在住で同じくパラリンピックの有力な代表候補であるスティーヴン・ウィルケ(Steven Wilke)を紹介してみます。

彼もジョシー同様右手だけでバイクをコントロールするライダーのひとりです。

かつてはスプリッターを使い右レバーで前後ブレーキを操作していましたがコントロール性能に疑問を感じ、その後はフロントにのみディスクブレーキを装備したバイクに乗るようになりました。

制動力にこそ不満を感じることは少なかったものの、ユタの山岳コースを仲間たちと一緒に50マイルのスピードで駆け降りる際にはいささか不都合があったのも事実です。

 

「下りを速く走るのは大好きなんだ。たとえブレーキがひとつだってやれるしね」 スティーヴンはそう言います。

「でも最近ちょっとした出来事があって・・・ 突然目の前に動物が飛び出してきたんだ。

フロントホイールをロックさせながらなんとか避けたけど、これはやっぱり何とかして解決策を見つけなきゃって思ってね」

 

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その解決策は極めてシンプルなものでした。

彼は勤務するバイクメーカーにあったMTB用のXTRブレーキレバーを裏返すと、それをドロップハンドルバーに通し、元々付いていたDURA-ACEのSTIレバーの少し内側へと固定しました。

更に手のズレを防止するためにTOGSアタッチメントを装着し、常に安定したポジションでブレーキレバーを操作できるように工夫しました。

そう、スティーヴンは右手の人差し指と中指それぞれで前後の油圧ディスクブレーキを独立してコントロールする方法を手に入れたのです。

 

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少しの創意工夫が片手でのバイクコントロールに大きな進歩をもたらしました。

 

そして、ライディングの進化はブレーキだけにとどまりません。

シマノDI2のシンクロシフト機能は右側もしくは左側だけのシフターでフロント・リア両方のディレイラー操作を可能にしています。

つまりひとつのシフターで全てのギアをコントロールすることができるのです。

スティーヴンと同じくジョシーもこのシフターセッティングを使い、右側だけのレバーで全てを操作することになるでしょう。

 

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「なんてこと!すごいわ!」

DI2シフティングとふたつのブレーキレバーが組み合わされたハンドルセットアップを初めて目にした時、ジョシーは思わずこう叫びました。

これまではできなかった前後独立してのブレーキングがもたらす新たなるパフォーマンス。

コーナー手前での効率的な減速が結果的に速く走ることに繋がるのは、レーサーである彼女自身が一番良くわかっています。

 

少しのアイデアと熱意により大きく広がったライディングの可能性。

ジョシーのその目は来たるパラリンピック、そして更なる先を見つめています。

 

 

 

(※当記事で紹介した事例は本来の製品取付方法とは異なりそれを推奨するものではありません。製品の組付・使用に際しては付属の取扱説明書をご確認ください)