自転車のペダリングは「心の柱」にも影響しているかもしれないと聞くと興味がわきませんか?情報過多な現代では、目の前のことに集中し、感情をコントロールできるようになることで、健やかな心を保ちやすくなるそうです。ストレスに強く、しなやかな「ブレない心」のつくり方、北里大学の西本真寛先生のお話をご紹介します。 

「ブレない」とは?

心理学的には3つの状態が考えられます。

ひとつは、感情のコントロールができている状態」。怒りや不安などの感情に振り回されず、落ち着いて対応できるスキルをもっていることです。

次に、心理学的にいう「参照枠」を良く知っていること。これは、自分が物事を判断するときの枠組みや価値観を良く知り、その価値観に準じて行動が出来ていることです。

3つめは、「言葉と行動が一致している」こと。他者から見た時には、言行一致が「ブレない」と称されます。「やるといったことは実行する」という人は、「言行一致」が実践できていて、周囲はブレない人だと評価します。これが信用につながっていきます。逆に発言と行動にブレがある人は信用を得にくい、というのは皆さんも理解しやすいのではないでしょうか。

“情報過多”“ブレやすい現代”

“自分の考えと行動”の見え方に、常に客観的でいるのは難しいものです。特に現代はスマートフォンにいつでも通知が入ってくる状況。こうした気が散りやすい状況は、自分に対して気づくことを難しくさせてしまいます。

目に入る情報量が増えると、それだけ人は判断しなければならない機会が増えてしまうからです。これによる“意思決定疲れ”が、自分自身への気づきも低下させてしまっている、と考えられます。

今の自分を俯瞰する“マインドフルネス”

自分の言動に客観的に気づくために有効と考えられている方法に、「マインドフルネス」があります。マインドフルネスの基礎的なトレーニングは、“今ここ”に100%集中することです。

一般的によく知られているのは座禅や瞑想。意識を集中させ、雑念がわいてきたらそのことに気づき、雑念は追いかけず、集中することに戻る、というトレーニングです。姿勢を整え、ゆっくりと呼吸を行って副交感神経を優位にすることは、乱れた自分に気づきやすくなる効果があると考えられています。今の自分の状態を俯瞰(ふかん)して見る目を持てるようになることで、「今集中すべきこと」に注意を戻す、自分の注意を意図的にコントロールすることができるようになっていきます。

周囲の環境に配慮しながらペダルを漕いで進む自転車は、自然と“今ここ”に集中する状態になり、マインドフルな効果が期待できると考えられます。自転車で走っているうちに、“気づいたら迷いが晴れていた”、“モヤモヤしていた気分がいつのまにかスッキリした”などといった経験がある方も多いかもしれません。

マインドフルネスは集中しにくい現代で注目される自己コントロール方法ですが、ブレない心のひとつ「感情のコントロール」についてはまた違う考え方があります。

心のしなやかさ「レジリエンス」

仕事や人間関係で何らかのトラブルが起こったら、どんな気持ちになりますか?多くの人は落ち込んだり、不安や悲しみを抱えがちになります。このような心が凹んだ状態が長く続いてしまうと、心の健康度を損なうばかりか、身体にまで何らかの影響が起こる可能性が高まってしまいます。これは決して良い状態とは言えません。

このような何らかのトラブルや、ストレスなどで感情がかき乱されたとき、重要になる心の働きが「レジリエンス」です。この言葉には復元力という意味があり、失敗や挫折をしたときに、その状況を学びとして前向きに受け止め、今後に活かそうとしていく心の働きです。

レジリエンスが高いと、心が凹んでしまった状態からの回復が早く、ストレスの影響を受ける時間を短くできると考えられます。しぼんだ風船が膨らみを取り戻していくようなイメージからレジリエンスは“心のしなやかさ”とも言われます。

この心の働きを活かす第一歩は、感情が動かされている自分の状況に気づくこと。これには、マインドフルネスも有効です。そして、気づいたら、感情の働きを活かすことが重要です。

不安や落ち込みなど強い感情を感じると、無意識に抑制してしまう人もいます。しかし、これでは気づくことも、前向きに受け止めることもできません。感情がわいたときには、抑制してしまうのではなく、感情がわいたことを活かしましょう。まずは、気づくこと、そして、その感情がなぜわいてきたのか考えるとよいでしょう。自分の中にわいた感情に名前をつけるだけでも、学びとして受け止めることに役立ちます。

自転車運動でレジリエンスを高めよう

レジリエンスを築くために、アメリカ心理学会は10の方法を提唱しています。その中で、「心と体をケアし、定期的に運動し、自身のニーズと気持ちに注意を払う。」というものが挙げられています。つまり、習慣的な運動も、レジリエンスを高める方法だと考えられます。

習慣的に自転車に乗ることは、レジリエンスを高めるだけでなく、前述のマインドフルネス効果も習慣的に得られるということになります。自転車走行中はスマートフォンから離れることのできる、現代では貴重な時間です。また、知らない道を走っているときほど集中した状況になりやすいと考えられます。

ストレスに強く、しなやかでブレない心をゴールに、まずは自転車通勤からはじめてみるのも良いでしょう。また、新型コロナウィルス感染症対策としても、「新しい生活様式」の中で自転車利用が提唱され、“3密“を避けるための移動手段として通勤に自転車を使う動きが出てきています。

自転車通勤については“自転車運動のメリットと通勤への自転車利用について”(Vol.49)でもご紹介しています。

マインドスイッチでは、自転車や自転車通勤による健康的で豊かなくらしを実現するための情報をこれからも皆様にお届けしてまいります。