腕をグルンと回してみる。グッと足を踏み出してみる。と、思い通りに身体を動かすことができるのは、骨と骨をつなぐ「筋肉」のおかげです。筋肉を適切につけた身体は運動能力を向上させる、糖の代謝を促進してメタボを防ぐ、骨や関節を保護してロコモになりにくくするなどの効果が期待されます。筋肉は健康体を維持するためになくてはならないものであり、「日頃から運動している身体」の象徴として捉えられてきました。しかし、この筋肉が実は臓器のような働きをしているという考えが最近出てきています。

筋肉から肝臓へ、大腸へ。マイオカインと健康の関係。

筋肉が臓器のひとつとして考えられるきっかけとなったのが、「マイオカイン」というホルモン物質が、筋肉から分泌されていることが新たに発見されたため。筋肉が発するマイオカインがさまざまな臓器に到達し、その機能を調節するのではないかと研究が進められています。あらゆる疾病の予防に、また健康寿命の延長にとその効果が期待されているマイオカイン。筋肉の新たな重要性を示すカギとして、今国内外での研究が加速しています。

「筋肉が他の臓器のようにホルモンを分泌している」という見解、実は20年ほど前から示唆されていました。それがマイオカインの一種でインターロイキン6です(下図)。膝の曲げ伸ばしを行った場合と、まったく動かさない場合で比較したところ、運動した足の静脈のみインターロイキン6が増加していることがわかり、この結果からマイオカインは収縮している筋肉から分泌されていると考えられるようになったのです。


近年では筋肉の細胞を電気刺激で収縮させる研究技術によって、筋肉からインターロイキン6が分泌されていることを証明。その結果、インターロイキン6が筋肉の糖の取り込みを促進し、肝臓でのブドウ糖の生成を増加させるなど、糖代謝を調節する働きがあると考えられています。

その後、研究によって多種のマイオカインが発見され、肝臓に作用するBAIBA、大腸がんの抑制効果が期待されているSPARCなど種類も特性もさまざま。いずれも運動による筋肉の収縮が影響していると考えられており、運動強度や運動時間、頻度などとの関係を紐解く研究結果が待たれています。

自転車運動は主に下肢筋肉を使う全身運動です!

自転車運動はどのタイプであっても両足を大きく動かすという特徴があり、これは体内で最も大きな筋肉である太ももを使うため、効率的に筋肉をつけられると考えられます。また、クロスバイクなどのスポーツバイクは前傾姿勢で腹筋や背筋で上半身を支えるため、全身運動としての効果が高いと考えられています。

骨格筋はこれまで、骨と骨をつなぎ、動作を生み出すことが主な役割であると長い間考えられてきました。しかし、さまざまな研究によって、糖代謝や脂質代謝などの代謝調節と関わっていること、そして近年では骨格筋量や筋力の維持がさまざまな疾病の予防に役立つという研究成果も登場してきています。では、どれくらいの運動で骨格筋の量や筋力が改善されるのでしょうか?自転車運動の例を見てみましょう。

上記のデータは活動的な8名の大学生に週3日、1日30分程度、運動強度60%HRR(=%最大心拍予備量、運動の強さを表す指標で60%HRRは、息が少し弾む程度の運動)の自転車運動を7週間続けてもらった結果です。わずか1カ月半ほどの中強度の自転車運動で、太ももまわりの筋肉の面積が増え、同時に膝の曲げ伸ばしの力も向上。これは大きく下半身を動かす自転車ならではの動きによって、筋肉の発達を効果的に促した結果だと考えられています。

自転車運動がもたらす効果が脂肪燃焼だけでなく、生活習慣病のリスクまで下げてしまうという今回のお話。この春、満員電車から解き放たれて、自転車通勤に切り替えてみたはいかがでしょうか?