『自転車に乗るとなんだか気持ちいい』そんな体験をしたことのある人は多いと思います。その気持ちよさの理由はいったい何なのでしょうか。風を切って走るから?スピードに乗るから?運動量が合っているから?

もちろん、これらの要素も気持ちよさを運んでくる自転車ならではの特性ではありますが、実はそれだけではありません。今回はメンタルヘルスへの効果としての自転車をテーマに、自転車の“気持ち良さ”の理由を探っていきましょう。

運動と心の関係

運動でストレス対策

『身体を動かすと気持ちがリフレッシュされて前向きになれる』このメカニズムには“脳の働き”が関係しています。ポジティブでストレスに強いコンディションを保つカギは運動にあることが脳研究において解明されています。

集中すること=幸福度を上げる

近年、幸福に関する科学的な解明が進んでおり、これらを総称して「幸福学」と呼ばれています。幸福になるための要素のひとつに提唱されているのが、“今の瞬間を楽しみ、目の前のことに集中する”こと。運動する時間は集中した状況になりやすく、幸福度を上げることにつながりがあるのかもしれません。

自律神経を整える

自転車は、自分の身体や周辺環境など、走行中にさまざまな意識を働かせ、走ることに集中します。これは、ヨガが呼吸と身体の動きを合わせることとよく似ています。有酸素運動には自律神経を整える効果があると言われていることからも、同様の効果が期待できるようです。

自転車通勤で脳をリセット

下図は、自転車通勤を始めた19名の2カ月後と4カ月後の心理アンケートの結果です。クロスバイクやロードバイクでの通勤スタイルで、遠い人では片道15kmというケースもありましたが、2カ月後と4カ月後の推移をよく見ると、疲労感はダウン、爽快感は維持となっており、全般的に良い精神状態であることが見て取れます。さらに自転車通勤をトレーニングとして意識するようになったり、仕事の効率が向上しているように感じたり、身体と精神的な変化を感じていたりと、ポジティブな状態に推移しています。

※Cyclingood Health Data Fileよりダウンロードできます。
https://cyclingood.shimano.co.jp/download/
 

自転車で往復する時間をもつことが、気持ちを安定させ、また前向きな気分にさせることにつながっていると言えるでしょう。

次の図は、自転車通勤を2カ月間継続した10名に毎日4回心理アンケートを行った結果です。特に着目したいのが、自転車通勤をした日の出社後、帰宅後の変化です。朝は出社時の落ち着きとやる気が同様に高まっていることから「イキイキとした状態」に、夜は特に落ち着き度が伸びていることから「リラックスした状態」に変化しています。さらにやる気度までアップしていることは、帰宅後に充実した余暇時間を過ごすためには、とても良い気分状態だと言えます。

仕事を始める前は前向きな気持ちに、帰宅後は落ち着いた心境になっていることは、自転車に乗ることによって、気持ちの切り替えがスムーズにできていることの表れであり、雨天や仕事の都合によって自転車通勤できなかった日の数値と比較すると、違いは明らかです。

「今日は疲れた」「仕事がうまくいかなかった」という日も、自転車で帰っている間に知らず知らずのうちに気分をリセットし、落ち込んだ気持ちを引きずることなく過ごせるかも知れません。

脳が運動で鍛えられる?

「脳の神経細胞は加齢と共に失われていく」と思っていませんか?

実は近年の研究によって脳の一部は、筋肉のように肥大しうることが明らかになってきました。認知機能全般を担う前頭葉、特に前頭前野は中強度の運動により、活性化し、注意力・判断力・集中力などの実行機能が高まることが知られています。この運動による効果はややキツイと感じる中強度の運動でしか得られないものと考えられてきました。ところが、最近の研究によると、低強度の自転車運動でも実行機能を支配する前頭前野が活性化することが明らかに。

さらに、たった1日10分の軽い運動でも、中強度の運動と変わらない効果が得られることがわかりました。この前頭前野が活発になることによって、仕事の効率アップや前向きな気持ちにつながるだけでなく、継続的に日常生活に取り入れることによって、認知症やうつ病の予防につながる可能性があるかもしれません。

低強度の運動とは息が上がらない程度でいいため、ゆったりとした自転車運動やウォーキング、ヨガや太極拳でも効果が期待できます。運動後には前頭前野が活性化するので、覚醒度が上がり、スッキリとした気分になると考えられています。

また、低強度の運動によって前頭前野だけでなく、海馬も鍛えられる可能性があり、研究が進められています。この海馬は欲望やストレスに関連する視床下部が暴走するのを制御しているため、“海馬を鍛える”ことは“ストレスに強い脳を作る”ことにつながる可能性があります。

1日10分程度の軽い運動であれば、通勤や買い物に自転車を活用するだけでも生活の中に自転車を取り入れることがきるでしょう。日頃から運動習慣のない人にこそ、ラクに乗れる自転車で「脳に効く運動」を意識してみてはいかがでしょう。なんだか最近、心のコンディションがいいなと感じ始めたら、それは脳がしっかりと鍛えられている証かもしれません。

自転車と脳の関係は、こちらでもご紹介しています。

“Vol.39自転車運動で「働く脳」へ”
“Vol.43自転車通勤ではじめる「脳活」”

マインドスイッチでは、自転車や自転車通勤による健康的で豊かなくらしを実現するための情報をこれからも皆様にお届けしてまいります。