デンマークでは1970年代末の第一次オイルショック後、1980年代から化石燃料に頼らずに済む、環境に優しい自転車の利活用を推進して来ました。元々国内に自動車メーカーが無いので政府に対するロビー活動が行われにくく、1980年代以降に化石燃料からの脱却を目指す政府としては、自転車や電気自動車へシフトしやすかったと考えられます。その分集中して、自転車のインフラ整備や教育に投資することができたという側面があります。気候変動に対する危機感は欧州内で共有されており、最近でこそS D G sやサステナブルというキーワードが登場して市民権を得つつありますが、いち早くカーボンニュートラルやグリーンモビリティーといった考え方で政策が進められて来たのは驚嘆に値します。1990年代には国家自転車安全戦略が制定され、自転車政策が加速して現在ではコペンハーゲンが世界一の自転車都市と称されるまでになりました。

クルマに高課税したデンマーク政府

自然の影響を大きく受ける地形もあって、昔から気候や環境に対する意識が高いデンマーク。そのため温暖化ガスの排出がない自転車の利活用を前面に押し出し、2025年にカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を±0)にする目標を立てました。同国にはクルマのメーカーが存在しないこともあり、クルマ(すべて輸入車)に高い税金(車両価格の150%に設定。2016年以前は更に高く180%でした)をかけて、取得を困難にすると共に、1980年代以降は積極的な自転車優遇策を取り、走行空間や法律の整備を進めてきました。

では早速、世界一の自転車都市政策をみていきましょう。

驚くべき、自転車インフラへの投資!

高さでレーンを分離

デンマークの道路は多くの場所で歩道・自転車道・車道が構造的に分離しています。下図の通り、歩道が建物側にあり、一段下がって自転車道、更に一段下がって駐車帯、車道となっており、歩行者が自転車道を歩くと怒られますし、自転車が歩道を走ることも禁止されています。このような通行空間を整備するには巨額の費用と遠大な時間がかかりますが、国の方針として将来にわたって整備が続けられる予定です。自転車道の多くは一方通行で、交差点手前では直進と右折のレーンに分かれます。(左折はデンマークも二段階です)


出典:Supercykelstier 2017 Koncept 2.0

サイクリスト向け手すり&足置き台

交差点手前には、自転車通勤者向けの足を置く台や手すりもあります。ペダルを漕ぎやすいポジションまでサドルを上げて、自転車に乗っている人が多い証拠ですね。


出典:Supercykelstier 2017 Koncept 2.0

サイクルスネーク

まだまだあります。2014年には自転車専用の橋、サイクルスネークがコペンハーゲンに登場しました。ご覧の通りヘビのようにクネクネと曲がっています。相互通行ですが、写真一番手前にも写っている通りカーゴバイクが走っても余裕のある幅員が与えられています。


出典:Supercykelstier 2017 Koncept 2.0

自転車専用信号機

自転車用の信号機がクルマ用より5秒間早く青になることによって巻き込み事故を防ぎ、一段と安全になりました。またコペンハーゲン市内は時速20kmで走行すると交差点で青信号が続くので、止まらずに走って行けるグリーンウェーブと呼ばれる信号制御システムが導入されており、多くのロードバイク乗りたちも街中では時速20kmで走行します。


出典:Den nationale cykelstrategi 2014

センサー付き街灯

郊外の暗い自転車道にはセンサー付きの外灯が設置されています。左の写真から右の写真へ見ていただくと分かりますが、自転車が2台手前に走っています。すると消えていた外灯が点いたことが分かりますね。


出典:Supercykelstier 2017 Koncept

主要大都市(コペンハーゲン)の交通手段

前述の施策の結果コペンハーゲンでは、実に49%の市民が通勤や通学に自転車を使っています。市は2025年に50%という目標値を設定しましたが、ほぼ達成しています。2009年には38%でしたが(当時すでに高い数値ですね)、上がったり下がったりを経て9年間で半数近くまで伸ばしました。逆にクルマは4ポイント下げて27%となっています。

コペンハーゲン市の交通手段別 通勤・通学の割合(右のグラフは年別推移)


出典:コペンハーゲン市 自転車統計(cykelredegrelse-2019)

デンマーク全土の交通手段


出典:Statistik om cykeltrafik

上のグラフはデンマーク全土の通勤手段の割合を表しています。他の国と同様に大都市以外を含めるとクルマ(Bil)通勤が53%と過半数です。Gangは徒歩(8%)、Cykelは自転車(24%)、Kollektivは公共交通機関(13%)、Andetはその他の交通手段ですが、デンマーク全土でも自転車通勤が24%と大変大きな存在感を示しています。




 出典:DANMARKS STATISTIK

 上のデータは、デンマーク全土の通勤距離を表しています。デンマーク全土の通勤距離は5kmまでを中心に20km未満が多く65%以上を占めていますが、イギリスやドイツに比べて20km以上の通勤者割合も多く、職住近接とは言えないようです。電車に巨大な自転車スペースがあり載せることが簡単なので、自転車→電車→自転車という通勤スタイルも可能です。


Green Mobility Short version 2013

おわりに

デンマークはその昔Viking(海賊)の国でしたが、現在は少し発音が変わってBiking(自転車)の国になりました。100万人都市はコペンハーゲン市1つしかない小さな国です(グリーンランドを入れると大きいです)。1980年代からインフラ整備に投資してきましたし、1942年から学校の授業で自転車教育を続けています。ほとんどの国民は全て自転車教育を受けているので、ドライバーも自転車を邪険にしません。自転車に対して、ハード面もソフト面も「選択と集中」を実施したので世界に冠たる自転車都市が生まれたのですね。これからも世界の先頭を駆け抜けて欲しいです。

マインドスイッチでは、自転車や自転車通勤による健康的で豊かなくらしを実現するための情報をこれからも皆様にお届けしてまいります。