そもそも免疫ってなに?
「免疫力アップ」なんて言いまわしで、なんとなくわかった気でいる「免疫」。しかし、免疫は決して高いことが良いわけではないって知っていましたか?

免疫とは、さまざまな細胞による「機能」であり「力」ではありません。「免疫力を上げる」という言葉が一般化していますが、免疫細胞を刺激すると自身の細胞を攻撃して多臓器不全になることもあるなど、決して「高い」ことが良いわけではないのです。
常に体内パトロールで身体を守る免疫細胞
たとえば風邪(上気道感染症)にかかったとき、免疫システムはどのようにして働くのでしょう。異物である病原体をいち早く発見し、攻撃を仕掛けます。さらに病原体を記憶して抗体を作り、感染細胞を殺して身体を守る、これが主な免疫の働きです。
また私たちの身体の中では、免疫細胞が常にパトロールしてくれています。実は人体には、1分間に2〜3個のがん細胞が生まれていますが、リンパ球のNK(ナチュラルキラー)細胞はがん細胞などを発見、攻撃する働きをもっているのです。
▶本記事のベースである健康心理学・応用健康科学専門の竹中教授の解説はこちらから。
自転車運動と免疫の関係
免疫細胞の性質を知って生活に活かすことで、病気と戦える強い身体づくりが可能になります。そこで気になってくるのが免疫と運動の関係ですね。
以前、通勤サイクリングラボでも「適度な運動習慣が風邪をひきにくくする」というデータをご紹介しました。実はハードなトレーニング後ほど免疫が低下しやすく、軽めの有酸素運動を習慣づけることで風邪をひきにくくなるというものです。
(Vol.19「季節の変わり目も調子よく!自転車通勤が風邪をひきにくくするって本当?」)
今回はその裏付けとなるデータをチェックしてみましょう。
強度の弱い運動の方が免疫細胞が安定する

私たちの身体をパトロールしながら異物を見張り、攻撃して「敵」と戦う免疫。その主な役割を担う白血球は、安静時には脾臓(ひぞう)やリンパ節などで休んでいます。しかし運動などのストレスが加わると、循環する血液の中に流れ出して攻撃態勢に入るのです。
運動の強さによってどのような変化が起こるのか、各細胞がどのような動きを見せるのかを示したものがこのデータです。
このグラフでは運動前後の白血球・リンパ球濃度の変化を表しています。 強度の強い運動を行うと、白血球の好中球が血流量の増加を受けて徐々に上昇し続けるのに対し、リンパ球はノルアドレナリンなどの神経伝達物質の増加によって運動中に上昇し、運動後に減少するという異なる動きがあることがわかります 。
好中球:好中球白血球の50~60%を占め、不必要なものを取り込み、消化し、分解する作用と活性酸素の殺菌作用によって侵入してきた細菌を破壊する。 リンパ球:白血球の30~40%を占め、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞、NK細胞などの分画をもつ、免疫機能を司る中心的な役割。

このリンパ球を構成する個々の細胞の変化を表したのがこちらのグラフ。
強い運動時にはNK細胞が安静時の5倍に至るほど急激に増加し、運動後に急降下しています。
これは強度の強い運動時ほど顕著であり、弱い運動時には大きな波は起こっていません。
強度の強い運動を行った後は一時的に複数の免疫機能が抑制される傾向にあり、これに対して弱い運動では免疫細胞に大きな影響を与えていないことがわかります。
運動しすぎなくていい。けれど運動しないと感染リスクはあがる。
「だったら運動そのものをしなくていいんじゃない?」という誤解を解くために見ていただきたいのがこちらのグラフです。

左は体力レベル別の3グループ、右は運動習慣別の3グループの上気道感染症の罹患期間=風邪にかかった期間を表しています。
まず体力レベルでは「低」グループが約8日間の罹患期間に対し、「中」「高」は5日程度とほとんど変わらない結果に。
右のグラフは運動習慣別にグループ分けしたもの。週に「1〜4日」と「5日以上」運動を行っているグループは罹患期間が短いことがわかります。
注目したいのは体力レベルのBとC、運動習慣のEとFの風邪にかかった期間がほとんど変わらないこと。
つまり、風邪を長引かせない身体にするには……
・適度な運動が必要である
・決して高い体力レベルでなくていい
・毎日のように追い込む運動習慣でなくていい
これらが明らかになったと言えます。
戦うカラダづくりを通勤サイクリングで叶えてみては

自転車はラクに有酸素運動ができ、まさに「頑張りすぎない運動レベル」にふさわしいツールです。忙しく運動の時間がとれないビジネスパーソンには、朝夕の通勤時間がそのまま運動に置き換わる通勤サイクリングがピッタリ。
ペダリングによる下半身の筋肉の増強は、白血球を生み出す骨を刺激し、免疫細胞にプラスに働く効果が期待できます。また自転車には特有の気持ちよさがありますが、この快感も免疫細胞の活性化につながります。 ちょうどいい運動を楽しみながら、時間を節約しつつ実践できる通勤サイクリングで、今年の冬から「戦えるカラダ」にシフトしてみては。
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